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なぜ、喫茶店なのか (2)

前回の記事(リンク)で、
  1. 常にそこにあり、目的がなくとも足を運べる
  2. 集まった人がコミュニケーションできる
  3. 非日常を感じられ、主人公になれる場所である
この3点を満足する場を作りたいと述べました。

結論から言ってしまうと、これらすべてを満たす場は、
今のところ私の身近には存在しません。
無いならば、作りましょう。
ただ、場所づくりは一人ではできません。
色々な人と、目指すビジョンを共有する必要があります。
しかし、今までにないものを作り出す場合、
見本がないので、イメージの共有がまず困難です。

私が店を持ちたいと思うきっかけのひとつになった
「代官山オトナTSUTAYA計画」という大変面白い本(Amazonリンク)があります。
TSUTAYAで有名なCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)社長の
増田宗昭さんによる本で、全ページに付箋を貼りたいくらい大好きな本なのですが、
その本から「新しい店をかたちにすること」に関連する部分を引用します。

「TSUTAYAを創業した1983年から現在まで、私はTSUTAYAの商材が単にCDやDVDや書籍だと思ったことは一度もない。私はTSUTAYAで売っているものは"ライフスタイル"だと思っている。(中略)人は映画に登場する人物のスタイルに憧れ、ロックの歌詞に表現された世界観に共鳴し、小説の文章にものの考え方や姿勢を学んだ。(中略)私はレコードやビデオや書籍というモノではなく、そうしたライフスタイルを発見する機会や場を提供したいと考えた。それがTSUTAYAの出発点であったのだ。」

「私はレコードやビデオや書籍を"パッケージ"と呼び、そのすべてを扱う"マルチ・パッケージ・ストア"としてTSUTAYAを展開させることにこだわったが、それもこうした、"私が提供するのはあくまでもライフスタイルなのだ"という意識のためである。というのも、TSUTAYAが誕生するまで、音楽はレコード店、映画はビデオ店、書籍は書店と、ソフトを扱う店ははっきりと分かれており、その垣根が超えられることはなかった。(中略)しかしライフスタイルそのものを売りたいとする私からすれば、そうした店舗形態のどのひとつを選んでも、それでは不十分なのである。この3種類がひとつの空間で選べることで、初めて意味が生まれる。」

しかし、

「私がある企画を考えつき、"この企画買いませんか?儲かりますよ"と企画書1枚を持って売り歩いても、まず誰もそれを買おうとは思うまい。その企画が売り込んだ相手の理解を超えるものなら、相手は理解できないわけだから、絶対にそれを"面白い"とは思わないし、逆に相手の理解の範囲内にあるものなら、それは私が考えるよりも先に商品化されているだろうからだ。だから私には、"私の考える企画は、例えばこうなりますよ"という、見本となる商品がどうしても必要だったのだ。それでTSUTAYAを始めた。そしてあのマルチ・パッケージ・ストアが全国に広がるに及んで、今では私の話に多くの人が耳を傾けてくれるようになったのだ。」


つまり増田さんは、
「扱う商品はあくまでもライフスタイルである」
との思いを持ち続けながらも、
最初につくった店の名に「書店」と冠すことで、
まずは「従来の書店をイメージして訪れる顧客」をつかみ、
そのまま新業態へ引き込んだわけですね。
そしてその業態が、顧客の求めていたものと一致したから、
TSUTAYAの店舗は全国に広がっていった。


なお、増田さんは前述の本の中で、最初の店に「書店」とつけた理由についても語っています。

「当時、ビデオを扱う店というのはアダルト系のイメージが強く、女性客には敬遠されがちな存在だった。それで私は店名に"書店"とつけることにしたのだ。(中略)今にして思えば、女性客を取り込むためにこの名を考えたことも、私なりのひとつのリコメンデーションだった。リコメンドの本質とは、相手の理解の領域の外にある企画を、その人の領域の中にある言葉に置き換えることだと私は考えている。書籍・ビデオ・レコードを扱う店に"書店"とつけることで、私はその考えを実践してみたのだ。」
「当時から私は、書籍と映画と音楽のソフトを三位一体で扱う"マルチ・パッケージ・ストア"という業態にこだわりを持っていた。しかし、"ビデオもレコードもメディアなのだから、本質的には本と一緒でしょう"と私が言っても、なかなか理解されなかった。そこで実際にそういう店を造り、"書店"の名を冠したのだ。"蔦屋書店"とは、こうした私なりの翻訳作業、すなわちリコメンド作業の第一歩だったといっていいと思う。」

「書店」と冠すことで入り口を広げた、ということですね。
入り口が狭いと、入ってきてくれるお客さんも少なくなってしまいますが、
入り口は広く開けておくことで、まずは入ってきてもらう。
話をきいてもらうのはそれからだ、という感じですね。

ここでもし増田さんが、「書店」ではなく
いきなり「マルチパッケージストア」という看板を掲げていたら、
ひょっとしたら、いまのTSUTAYAの成功はないかもしれません。
どんなに良いものを作っても、見てもらえなければ意味がありませんから。



入り口は広く。奥は深く。
このお話を参考にしつつ、私の作りたい「場」の実現方法について
考えていきたいと思います。


次回「なぜ、喫茶店なのか (3)」乞うご期待